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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(オ)33号 判決 1950年9月15日

主文

原判決を破棄する。

本件を高松高等裁判所へ差戻す。

理由

上告状並上告理由書記載の上告理由について

上告人は昭和二〇年五月二四、五日頃被上告人に対し防空用草履二万五千足を、代金合計三万五千円、代金前払の約定で売渡し、内金二万五千円の支払を受けたが、残金一万円については被上告人は将来の売買手附金五千円と併せて、金額一万五千円、振出日附同月二八日支払銀行株式会社帝国銀行玉造支店なる当座小切手を上告人に交付したこと、しかるに、右小切手は同月二八日上告人において前記帝国銀行玉造支店に支払の為め呈示したところ、預金不足のためその支払を受けなかつたことは原判決の確定することろである。しかして本訴において上告人の請求するところは、前示売買契約に基づく代金残額一万円の支払であることは原判決の事実摘示からみて明らかであつて、(右小切手については呈示期間内に所定の手続が実践されておらず本訴が小切手金の請求をするものでないことは明らかである)原判決は、その後同年八月一三日被上告人が前記帝国銀行玉造支店における同人口座に右小切手金の払込をした事実を認定し、これによつて右代金債務に対する弁済の効力は発生したものと判示したのであるが、当事者間に特段の契約があるか又は特段の慣習が存在しない限り、買主が自己の取引銀行の口座に小切手資金の払込をしただけで売主への代金支払の効果を発生する理由はないのであるから、原判決が如上の判断を示すについては当事者間に前記の如き特別の事情が存在したか否かについて審理判断しなければならないのである。しかるにかかる点について何等ら審理することなく、漫然前叙の如き判断を示した原判決は、審理不尽又は理由不備の違法を免れない。

尚職務を以て調査するに、原判決には裁判長判事岡村連、判事前田寛、判事萩原敏一の署名捺印があるのであるが、原審口頭弁論調書によれば、昭和二三年一〇月二三日午前十時の原審最終口頭弁論期日に臨席した判事は裁判長判事岡村連、判事三野盛一、判事萩原敏一の三名であることは明瞭であるから、原判決は基本たる口頭弁論に臨席しない判事前田寛が関与して為されたものであつて、民訴法一八七条一項に違背した不法あるものといわなければならない。

よつて民訴四〇七条に従い、原判決は全部破毀すべきものと認め主文のとおり判決する。

右は、裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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